【薬物動態学】繰り返し持続静脈内投与をしたときの薬物血中濃度の時間推移式を導出する

repeat_continuous_intravenous 薬物動態学
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注意:今回は医療者もしくは薬学生さん向けの内容です

前回のおさらい

以前の記事では薬を持続静脈内投与(いわゆる点滴)を実施した場合の薬物血中濃度の時間推移式を導出しました.

 

$$C_{t} = \frac{k_{0}}{Vd・k_{el}}(1 – e^{-k_{el}t})\tag{D}$$

 

この場合は点滴を一回だけ行った際の血中濃度の時間推移を表しています.

しかしながら,実際の臨床現場では点滴を一回だけ済ませて,それで治療が完了というと,そうでもない事例もあるでしょう.というか,一回だけでスッキリ完治した!なんて症例などほとんどないように思います.通常の治療であれば,「〇〇という薬を△時間かけて持続点滴.それを□時間ごとに繰り返し投与して様子を見ましょう」というような治療スケジュールを立てることの方がほとんどかと思います.

これにはちゃんとした理由があって,多くの場合,薬物を急速静脈内投与すると急激な血中濃度の上昇に伴う様々な有害事象が生じます.有名なのはバンコマイシンによるred neck症候群があるでしょう.

では,「〇〇という薬を△時間かけて持続点滴.それを□時間ごとに繰り返し投与」した場合の薬物血中濃度の時間推移式はどんなものになるのでしょうか?今回の記事は繰り返し持続点滴を実施した際の薬物動態学についてみなさんと一緒に数式を導出します.途中で投げ出さずについてきてくださいね.

今回導出する数式はこれだ!ビビらずしかと見よ!!

ある薬物$X$を$T$時間かけて,投与速度$k_{0}$で持続的に静脈内投与をし,それを$\tau$(タウ)時間ごとに$n$回繰り返した際の血中濃度$C_{t}$の時間推移式は以下のようになります.

 

$$C_{t, n\tau} = \frac{k_{0}}{Vd・k_{el}}(1 – e^{-k_{el}T}) \left(\frac{ 1 – e^{-nk_{el}\tau}}{ 1 – e^{-k_{el}\tau}}\right)e^{-k_{el}(t-T)}\tag{E}$$

 

それぞれの記号の意味はこれまでの記事と同じものです.
逃げ出したくなってしまったそこのあなた!大丈夫,今回の導出で使うのは(D)式と高校数学の知識だけです.きちんと言葉を補って説明しますのでご安心ください.

ステップ1:持続点滴が終わった直後

(D)式にしたがって,薬を$T$時間かけて持続静脈内投与し,その後投与を中止した時の血中濃度は以下のようになります.

 

$$C_{T} = \frac{k_{0}}{Vd・k_{el}}(1 – e^{-k_{el}T})\tag{1}$$

 

(D)式の$t$が大文字の$T$に変わっていることに注意してくださいね.さて,投与を中止したということは,それ以上血中濃度は上昇しません,このまま消失過程にしたがって血中濃度は下がって行くだけです.つまり,消失過程に着目すれば,この$C_{T}$が初期濃度として,消失速度定数$k_{el}$にしたがって血中濃度が低下してゆく,と理解できます.よろしいでしょうか?

よって,投与を中止してから,ある時刻$t$における血中濃度は(1)式を用いて以下のように表せますよね.

 

$$C_{t} =C_{T}e^{-k_{el}(t-T)}\tag{2}$$

 

時間の項が$t-T$になっているところに注意してください.初期の$T$時間までは薬物は消失だけでなく静脈内投与も関わっていますから,時刻$t$からその分を引いておく必要があるのです.

ステップ2:$\tau$(タウ)時間後に再度持続静脈内投与した時?

さて,(2)式から$\tau$(タウ)時間経過したのち,再度繰り返し同じ薬剤を持続静脈内投与すると血中濃度はどんな式になるでしょうか?これは,$\tau$(タウ)時間経過した時点での血中濃度に,後から持続投与された分が追加されることになりますので,以下のように記述できます.

 

$$C_{t, \tau} =C_{T}e^{-k_{el}(t-T+\tau)} +C_{T}e^{-k_{el}(t-T)}$$

 

さらに,ここからまた$\tau$(タウ)時間経過後に同じように持続投与をすると,

 

$$C_{t, 2\tau} =C_{T}e^{-k_{el}(t-T+2\tau)} + C_{T}e^{-k_{el}(t-T+\tau)} + C_{T}e^{-k_{el}(t-T)}$$

 

となります.

拙ブログの過去記事を読んでくださっているみなさんならもう感づいたでしょう.そうです,これってつまり,

 

初項が$C_{T}e^{-k_{el}(t-T)}$ ,公比が$e^{-k_{el}\tau}$の等比数列の和

 

とみることができますよね!

ステップ3:等比数列の公式にしたがってn回繰り返し持続投与した時の式をだす!

ここまで理解できたなら後少しです.n回繰り返し持続静脈内投与した際の血中濃度は,等比数列の公式を使えば以下のように記述できますよね.

 

$$C_{t, n\tau} = C_{T}e^{-k_{el}(t-T)}\left(\frac{ 1 – e^{-nk_{el}\tau}}{ 1 – e^{-k_{el}\tau}}\right)$$

 

したがって,$C_{T}$を(1)式のように元の形に戻せば,

 

$$C_{t, n\tau} = \frac{k_{0}}{Vd・k_{el}}(1 – e^{-k_{el}T}) \left(\frac{ 1 – e^{-nk_{el}\tau}}{ 1 – e^{-k_{el}\tau}}\right)e^{-k_{el}(t-T)}\tag{E}$$

 

と,晴れて(E)式を導くことができました.おめでとうございます!

実践:定常状態に達した時の血中濃度式

(E)式が導出できたとして,定常状態(steady state, ss)に達した時はどんな数式になるのでしょうか.これは数学的には$n \to \infty$と考えることができるので,指数関数の極限は$e^{-nk_{el}\tau} \to 0$となり,よって,

 

$$C_{t, ss} = \frac{k_{0}}{Vd・k_{el}}(1 – e^{-k_{el}T}) \left(\frac{ 1 }{ 1 – e^{-k_{el}\tau}}\right)e^{-k_{el}(t-T)}$$

 

となります.よろしいでしょうか?
さらに,定常状態での最高血中濃度$C_{max, ss}$は,薬物を投与し終えた食後である$t = T$,
最低血中濃度$C_{min, ss}$は薬を投与する直前である$t = \tau$の時でありますから,

 

$$C_{max, ss} = \frac{k_{0}}{Vd・k_{el}}(1 – e^{-k_{el}T}) \left(\frac{ 1 }{ 1 – e^{-k_{el}\tau}}\right)$$

$$C_{min, ss} = \frac{k_{0}}{Vd・k_{el}}(1 – e^{-k_{el}T}) \left(\frac{ 1 }{ 1 – e^{-k_{el}\tau}}\right)e^{-k_{el}(\tau-T)} = C_{max, ss}e^{-k_{el}(\tau-T)}$$

 

と記述ができるでしょう.臨床現場ではこの2つの式を使うことが多いです.これも,導出を理解した上で覚えておきましょう.