【薬物動態学】経口単回投与時の薬物血中濃度の推移式を導出してみた

経口単回投与時の薬物血中濃度の推移式 薬物動態学
経口単回投与時の薬物血中濃度の推移式

pharmasahiroです.
今日は薬物動態学についてでございます.

経口単回投与時の薬物血中濃度の時間推移式は?

はい,この数式ですよ.薬剤師の先生方や薬学生さんは一度くらいは目にしたことがあるでしょう.

$$C_{t} = \frac{F・k_{a}・D}{Vd・(k_{a} – k_{el})}・(e^{-k_{el}t}-e^{-k_{a}t})\tag{A}$$

これは薬物動態学の中でも,「ある薬を経口単回投与した際の薬物の血中濃度の時間推移」を記述する数式です.

それぞれの記号が何を意味するかというと,

記号意味
Xtある時刻tにおけるコンパートメント内の薬物量
Ctある時刻tにおける薬物の血中濃度C
ka薬物の吸収速度定数
F薬物のバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)
D薬物の投与量
Vd薬物の分布容積
kel薬物のコンパートメントからの消失速度定数

となります.

薬物動態学の教科書や参考書などではもう馴染みの数式でしょうか.ぼくは学生時代はなかなかに動態学が苦手でして…しかし薬剤師となって,社会人になって,その必要性や重要性がようやく理解できたため(遅っ!,もう一度はじめからきちんと学び直そうと古い教科書なり新しい参考書なりを購入して,勉強に耽っていたのですが,ふとした時に,

「そういえばこの式ってどうやって導出するんだろう?」

と疑問が湧いてきたんですよね.
ただ,ネットでいくら探しても,なかなかこの式の導出をきちんと説明しているサイトがなかったんですよ.
注意:これも自分の拙い検索の結果なだけやもしれません.いい情報があればご教授願います.

ということで,「ないなら自分で創ろう」の精神でこの(A)式を導出してみましょう.

経口投与では吸収過程と消失過程の2段階を考える

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経口投与におけるコンパートメントモデル

 

 

 

 

 

 

 

経口投与された薬剤が吸収され,そして然るべき場所で作用したのち作用点から消失するモデルを考えます.今回導出する数式の背景にある薬の動きを図式化したものですから,皆さんもしっかり頭に入れておきましょう.

ひとまず微分方程式を組み立ててみよう

微分方程式を組み立てる際のポイントは,

  1. コンパートメントに流入する薬物( = 吸収過程)
  2. コンパートメントから流出する薬物( = 消失過程)

を考えることです.これによって薬物Xの時間変化$\displaystyle\frac{dX_{t}}{dt}$は,

$$\frac{dX_{t}}{dt} = -k_{el}X_{t} + Fk_{a}De^{-k_{a}t}\tag{1}$$

で表されます.
重要なのは(1)式の右辺第2項のところです.
ここはコンパートメントへの薬物の流入(すなわち吸収)過程を表しているのですが,
これって薬剤そのもの(例えば錠剤)からすれば,錠剤が溶解・崩壊して消失してゆく過程とみなすことができます.つまり,この項は単純な1-コンパートメントモデルの消失過程として記述が可能となるのです.

このあたりの解説は別途また記事にしましょう.しばしお待ちを.

どうやってこの方程式を解くの?

方程式が立てられたとして,今度はこの微分方程式を解かなければなりません.さて皆さま,どうすればいいのでしょうか?

ここでポイントとなるのは,「先に方程式の解を予測しておく」ということです.
具体的には関数$f(t)$を用意して,(1)式の解を,

$$X_{t} = f(t)e^{-k_{el}t}\tag{2}$$

の形で得られるとするのです.
ギョッとされた方もいらっしゃるとは思いますが,これはどうも微分方程式の解法としてはそこまで奇天烈なものではありません.というか,自分も散々いろんなサイトなり自前の書籍なりを調べてみてやっと気づいた方法でした.

さて,(2)式を時間tで微分すると,合成関数の微分の公式から,

$$\frac{dX_{t}}{dt} = f'(t)e^{-k_{el}t} – k_{el}f(t)e^{-k_{el}t}\tag{2′}$$

となります.ここは高校数学の復習ですよ皆さん.

(1)式の$X_{t}$にも(2)式を代入します.
そして,(2′)式と(1)式は等価であるため,次の等式が成り立ちますよね.

$$f'(t)e^{-k_{el}t} – k_{el}f(t)e^{-k_{el}t} = -k_{el}f(t)e^{-k_{el}t} + Fk_{a}De^{-k_{a}t}$$

すると,左辺第2項と右辺第1項が打ち消しあって消えますよね.よって,

$$f'(t)e^{-k_{el}t} = Fk_{a}De^{-k_{a}t}$$

となり,左辺の$e^{-k_{el}t}$を右辺に移動させて,

$$f'(t) = Fk_{a}De^{(k_{el}-k_{a})t}$$

したがって,この$f'(t)$を時間tで積分して,

$$f(t) = \frac{F・k_{a}・D}{k_{el}-k_{a}}e^{(k_{el}-k_{a})t} + 積分定数C$$

となります.この$f(t)$を(2)式に代入して,

$$X_{t} = \left(\frac{F・k_{a}・D}{k_{el}-k_{a}}e^{(k_{el}-k_{a})t} + C\right)e^{-k_{el}t}\tag{3}$$

ここで,$t=0$の時はコンパートメント内の薬物$X_{0} = 0$であるため,

$$0 = \frac{F・k_{a}・D}{k_{el}-k_{a}} + C$$

したがって,積分定数Cが

$$C =\frac{F・k_{a}・D}{k_{a}-k_{el}}$$

であることがわかります.$k_{el}$と$k_{a}$が入れ替わっていることに気づいてくださいね.

この積分定数Cもう一度(3)式に代入して,

\begin{eqnarray}
X_{t} &=& \left(\frac{F・k_{a}・D}{k_{el}-k_{a}}e^{(k_{el}-k_{a})t} + \frac{F・k_{a}・D}{k_{a}-k_{el}}\right)e^{-k_{el}t} \
&=& \frac{F・k_{a}・D}{k_{a}-k_{el}}\left(-e^{(k_{a}-k_{el})t} + 1\right)e^{-k_{el}t} \
&=& \frac{F・k_{a}・D}{k_{a}-k_{el}}(e^{-k_{el}t} – e^{-k_{a}t}) \tag{4}
\end{eqnarray}

したがって,(4)式の両辺を分布容積$Vd$で除せば$\frac{X_{t}}{Vd}=C_{t}$なので,

$$C_{t} = \frac{F・k_{a}・D}{Vd・(k_{a} – k_{el})}・(e^{-k_{el}t}-e^{-k_{a}t})\tag{A}$$

とちゃんと(A)式が導出できました.やったー!!!(喜んでいるのは筆者だけ?)

数式の証明・導出もできるとより理解が深まるのでは?

微分方程式の組み立て方からその解法までを一気に書き連ねてみました.いかがでしたでしょうか?
正直,臨床現場ではここまで一から数式を導出して,それぞれのパラメーターに値を入れて手計算することはないかと思います.大きな施設では計算機シミュレータもあるのやもしれません.
ただし,日頃から使っている(であろう)武器が,一体どういった過程を経て導き出されたものかを理解することもまた,その武器を使いこなせるようになることと同じくらい大事なんじゃないかとわたしは思います.

この記事が,薬学を学ぶ学生さんと,薬学を駆使して現場を支える薬剤師の先生方の薬物動態学への理解と興味を沸きたてる一助となれば幸いでございます.