『血圧を下げる薬で認知症になる』は間違い〜医療デマを再考する〜

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高齢者の服薬

pharmasahiro です.
少し温めておいたネタを投入します.

いまだにはびこるトンデモ記事

数年前から,幾度にわたって,

「薬の副作用の恐怖」
「本当は恐ろしい薬の真実」

といった類の,
キャッチーでインパクトのある週刊誌の記事がありましたね.

そのうちの一つに,

「血圧を下げる薬を飲むと…(中略)…認知症になる!!」

なんて文言もありました.

ちなみに今でもGoogleで「血圧 薬 副作用 認知症」検索するとこんな結果が出てきます.

降圧薬_認知症リスク検索結果

降圧薬_認知症リスク検索結果

 

 

 

 

 

 

 

 

実際にそのページを覗いてみました.

まぁ確かに言わんとすることはわからんでもないですが,

検証された事実と,まだ仮説段階の,つまりはっきりと結論が出ていない題材を上手に織り込んで
あたかもこれが真実だと思わせるうまい記事を書くなぁとむしろ感心してしまいましたよ.
(注:思いっきり煽ってますからね

特に「んん?!」と思ったのが二番目の検索結果の記事の中にある以下の説,

(中略)

 ↓
血圧を下げたことによって脳へ血液循環が悪くなる

 ↓
降圧剤を飲み続ける
 ↓
認知症の疑い

(中略)

参考文献による事実確認もなく,病態生理上の仮説をまるで真実かのように謳いやがっていますね.これは本当にひどい.しかも書き手は薬剤師だと.衝撃.

同じ薬剤師として,
国民のみなさまに要らぬよからぬ不安だけを与えてしまったことをお詫び申し上げます.

さて,とはいえこれらの記事をdisるだけならば簡単なのですが,ここでは本当にこれらの記事の中にある,

「血圧を下げる薬で認知症になる」

は本当に事実として報告されていることなのでしょうか.

 

頭の中に出来上がってしまった常識や思い込みをいちど脇に置いて,
フラットな視点で確認してみましょう.

そもそも血圧を下げる薬で認知症の発症リスクは本当に上がるのか?

これは知らない方もいらっしゃるのやもしれませんが,

もともとは生涯にわたって血圧が高いままであると,
つまり高血圧であることのほうが認知症の発症リスクと関連があると言われているんです[1]

それを血圧を下げる薬で本当に予防できないかという臨床疑問が先行していたんですよね.

ツイートの内容は平均年齢74歳の患者1,346,176人というなかなかに大規模なメタ分析なのですが,
降圧薬による治療によって,脳血管性認知症だけではなくアルツハイマー型認知症も予防できるかもしれないという結果でした[2]

(ここ重要,明確に予防ができるという根拠が今もあるわけではないのです)

つまり,少なくとも

「薬の副作用で認知症になる」

となどとは決して言えません.

何か記事を書くのであれば病態生理的な理屈だけではなくて,
実際にそう言った事象が確認・報告されているのかをちゃんと調べてからやって欲しいものですね.

認知機能改善のために血圧を下げる薬をやめたら本当に認知機能が改善するの?

「認知症にならないように,今飲んでいる血圧を下げる薬をやめましょう!」

と声高らかに患者を扇動したとして,さて本当に薬を中止することで認知症の発症が少なくなったり,
認知機能の改善はあるのでしょうか.

このツイートで紹介したコクランのメタ分析では
降圧薬の中止と認知症の発症や認知機能への影響が検証されました.

その結果,

認知症の発症リスクも認知機能も,
降圧薬の中止で改善もしくは悪化するかよくわからない

というのが現状のようです[3]

…はい,これもまた医療デマ爆死.

そもそもの理屈である「血圧が低いと脳への血液循環が悪くなる」は本当なのか?

最後にトドメの一発をかましておきましょうか.

こちらは小規模なトライアルではありますが,
平均年齢74歳の血圧が高めの患者37名に対して,
血圧を積極的に下げる群と緩めに治療して下げる群とに分けて12週間治療した結果,

脳血流量(cerebral blood flow, CBF)はむしろ積極的に血圧を下げた群で上昇しております[4].

おそらくデマ記事の主張の根幹となる理屈は低血圧による意識消失発作から連想しているとはわたしは思うのですが,
その仮説が正しいとは現時点では言えないようですね.

ついでに追い討ちをかけます.
すでに認知機能が軽度低下している80歳以上の高血圧症患者さんが降圧薬をやめたとしても,
4ヶ月後の脳血流量はほとんど変化していないという報告も見つけました[5].

もう彼ら彼女らのいう理屈・理論も机上の空論以外の何ものでもないでしょう.

まとめ:おかしな主張には根拠を持って反論・検証を / 患者の不安へは愛情をもって臨むこと

「血圧を下げる薬で認知症になる」

をエビデンスを元に検証してみました.
その結果は上記の通り,
どれだけ譲ったとしても到底容認できるものではないとわたしは思います.

こういったおかしな主張は次から次へと出てくることでしょう.

まるでDevil May Cryの悪魔のように.

でも,我々医療者がそれを野放しにするわけにはいきません.

デタラメな主義主張に対しては根拠を確認してはあくまでクールに,けれども徹底的に対応してゆきましょう.

そして何よりも,こういったデマに心まどわされ,不安で相談にくる患者さんやご家族さんへはきちんと温かく対応するようにしましょう.

一人でも多くの人の不安を取り除くようにしようではありませんか.

今日はここまで.
それでは▽

参考文献

[1] UpToDate. Risk factors for cognitive decline and dementia.
[2] Rouch L, Cestac P, Hanon O, et al. Antihypertensive drugs, prevention of cognitive decline and dementia: a systematic review of observational studies, randomized controlled trials and meta-analyses, with discussion of potential mechanisms. CNS Drugs. 2015;29(2):113-30. PMID: 25700645
[3] Jongstra S, Harrison JK, Quinn TJ, Richard E. Antihypertensive withdrawal for the prevention of cognitive decline. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011971. PMID: 27802359
[4] Tryambake D, He J, Firbank MJ, O’brien JT, Blamire AM, Ford GA. Intensive blood pressure lowering increases cerebral blood flow in older subjects with hypertension. Hypertension. 2013;61(6):1309-15. PMID: 23529166
[5] Foster-dingley JC, Moonen JE, De craen AJ, De ruijter W, Van der mast RC, Van der grond J. Blood Pressure Is Not Associated With Cerebral Blood Flow in Older Persons. Hypertension. 2015;66(5):954-60. PMID: 26351027