日本人ではL/H比を薬で改善しても心臓の病気は減らない?!

pharmasahiroです.

前回の記事を書いた後どうしても気になって,
Googleで
「LDL HDL ratio statin pmc」で検索していたのですが,
なかなか思うような論文が見つからずモヤモヤ…

ただ,前回読んだ論文の引用文献に,なんと日本での臨床試験の結果があることに偶然気が付いたのです.
(論文に出会えるのも運によるところが大きいのでしょうか…危うく見逃すところだった…)

Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanese patients with hypercholesterolemia.
Matsuzaki M, Kita T, Mabuchi H, et al.
Circ J. 2002;66(12):1087-95.
PMID: 12499611
PDFはこちら.

Large scale cohort study of the relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanese patients with hypercholesterolemia and coronary heart disease: secondary prevention cohort study of the Japan Lipid Intervention Trial (J-LIT).
Mabuchi H, Kita T, Matsuzaki M, et al.
Circ J. 2002;66(12):1096-100.
PMID: 12499612
PDFはこちら

同じ時期に同じ研究期間から同じ筆頭著者で一次, 二次予防の論文を出しているようです.

J-LIT studyという名前のこの2研究,
どういった内容なのかと言うと,

まず一次予防では

どんな患者に 総コレステロール値が平均270mg/dlの日本人41,801人(男性35-70歳,女性は閉経後でかつ70歳未満,L/H比は平均で3.1程度)
何をすると simvastatin 5mg or 10mgを投与
何と比較して 対照なし(!)
どうなる 致死的・非致死的心筋梗塞および心臓突然死(追跡期間:平均5.39年)

…つまり,薬剤の効果を観察研究で検証している,と言うことなのでしょうか.
なぜ二重盲検ランダム化比較試験をしなかったのだ…

もうこの時点でなんとなくダメな論文である気がしたのですが,
まぁ結果も以下のようにグダグダでしたね.
TCやLDL-c,TG,HDL-cの値によって患者を層別に解析しているようにも見えるのですが,

L/H比 アウトカムの発生数 相対リスク[95%CI]
<2.0 23/10808 0.67[0.39–1.14]
2.0–2.4 32/10,197 1.00[reference]
2.5–2.9 33/8,949 1.21[0.74–1.96]
3.0–3.4 44/5,730 2.54[1.61–4.00]
≥3.5 68/5,726 4.02[2.63–6.13]

...そもそもなぜL/H比が2.0-2.4を基準(reference)としたのだろう…

しかもこの結果なのに, 論文では
「日本人では薬による一次予防では総コレステロール値で240mg/dl未満,LDL値では160mg/dl未満,中性脂肪では300mg/dl未満,HDLでは40mg/dlより高値が良いだろう」
と結論づけているんです.
(どこが?!)

試験の組み方から結果,および結論まで何もかもがツッコミどころ満載のような論文でしたね.

もう一つの,二次予防の論文でも, 

どんな患者に 総コレステロール値が平均265mg/dlの日本人4,599人(男性35-70歳,女性は閉経後でかつ70歳未満,L/H比は平均で3.5とちと高め)
何をすると simvastatin 5mg or 10mgを投与
何と比較して 対照なし(!)
どうなる 致死的・非致死的心筋梗塞および心臓突然死(追跡期間:6年)

と,やっぱり比較対照なしの観察研究のようです.
結果も,

L/H比 アウトカムの発生数 相対リスク[95%CI]
<2.0 11/1241 0.75[0.34–1.63]
2.0–2.4 15/1,120 1.00[reference]
2.5–2.9 26/898 2.18[1.15–4.11]
3.0–3.4 22/655 2.40[1.24–4.62]
≥3.5 28/651 3.05[1.63–5.72]

と,先ほどと同様に有意差なし.
そしてこちらでも,
「冠動脈疾患の既往のある患者では薬でLDL-C値を120mg/dl未満,HDL-C値では40mg/dlより大きくすると良いだろう」
と結論づけています.
(やっぱりどういう理屈で?!)

うーむ,これはひどい.
J-LIT study,ようやくお目当の論文を見つけたと思ったら中身を読んでひっくりかえりそうになりました.
これで脂質管理の目標値をどうやったら120とか40とかに設定できるんだろう…

21世紀になっても日本の研究はこのザマと言うことなのでしょうかね.
(あんまりdisってもいけないとは思いますが,我慢できず…)
(もし論文の結果の表記に誤りなどあればご指摘ください)

L/H比への疑問から始まった記事ですが,
結論としては,

「日本人の脂質異常症患者でL/H比などの脂質プロファイルをシンバスタチンで改善しても(改善できてるの?!),冠動脈疾患(心筋梗塞,心臓突然死)の発症リスクを減らせるか,未だよくわからない」

というところのようです.

今日はここまで.
それでは▽