いきなり計算しない

pharmasahiroです.

ちょっと思うところがあって,
薬物動態学(pharmacokinetics)を勉強し直しています.
主にネット上に落っこちている無料の資料をもとに,
やれ一次速度過程(一次反応?)に従うだの,
コンパートメントモデルだの,
単回投与だの連続投与だの静注だの経口だのなんやかんや,
むかーし学んで脳みその奥底に眠っている知識を叩き起こして引っ張り出しております.

もともと数学が割と好きな方で,
大学受験の際も第一志望は薬学部ではなく某旧帝大理学部を受験したような身でしたので,
(もちろんあっさり落ちたけれどね!)
計算そのものは特に苦にならず,
公式の証明はむしろそれはもう楽しくて楽しくて仕方なくて,
こういうことにもっと時間をかけたいな, むしろ新しい理論や公式なんて構築できたらいいな,
そういった「生き方改革」をしてみよう, とも思ってしまいました.

そんな新しい夢を見つけた(というか以前からの夢を思い出した)のですが,
ふとしたした時に, 以下のような例題を見かけたんです.
(正確には某SNSでの研修会の模様を思い出しました)

ビルダグリプチンが処方された.
患者の状態データはこれこれ.
薬剤の動態データはこれこれ.
さて, 何日反復経口投与していれば定常状態になるのか

んー, ちょっと待ちなさぁい!

ビルダグリプチンも含めたDPP-4i,
服用しても結局糖尿病の真のアウトカムである
心血管イベントも死亡リスクも減らない薬剤なんだよぉ!
Efficacy and safety of DPP-4 inhibitors in patients with type 2 diabetes: Meta-analysis of placebo-controlled randomized clinical trials.
Rehman MB, Tudrej BV, Soustre J, et al.
Diabetes Metab. 2017;43(1):48-58.
PMID: 27745828

つまり, もしかしたら(しなくても?!)
この場合計算なんかするよりも,
その薬自体が無駄じゃないかと思った方が良いのではないのでしょうかね…

…勿論ですが,
私は薬物動態学そのものを否定するつもりは全くないですし,
無駄だとはこれっぽっちも思っていません.

薬物動態学は薬学の要の一つであり,
素人が下手に手を出すと失敗するものですし,
正確な体内動態の把握が必要な薬剤だってあるはずです.

ただ, 気をつけなければならないのは,

ある薬を見かけた時に,
それが目の前の患者さんにとって本当に必要なのか, どれくらい使用が妥当なのか,
その薬剤を服用した時に, しない場合と比較して,
憂慮すべきアウトカムは何か, それはその薬剤で本当に改善するのか,

など, 計算・算術・シミュレーションする前にちょっと立ち止まって考えて,
それを患者さんや他の職種(多くは医師でしょうかね)ときちんと話し合おうよ, ということです.

その上で, やっぱり必要な薬剤だ, それは患者さんも納得している, というところまで落とし込む.
そういったある種の信頼関係(ラポール)を形成することをおざなりにしたまま, 単に問題が目の前にあるから計算するんだ,
ではだめでしょう,

ということが言いたいのです.

いきなり計算しない

計算はあくまで手段であって目的は患者のアウトカムが改善することです.
ましてや定常状態などの算出にあらず.

なんのために頭と手を動かしているのか,
そこは常に空振りしないようにしたいものです.

今日はここまで.
それでは▽